ゲームの作り方 シナリオ編



考察


導入部

 シナリオを書くとき、まず悩むのが導入部分でしょう。
 なにせ、一番最初の部分ですから、とっかかりでもありますし、見せ場でもあります。ゲームの中でも、非常に重要な部分です。
 そこで、導入部について、少し考えてみたいと思います。


導入部の目的

 導入部の目的とはなんでしょうか? 考えてみます。


ゲームの説明をする
 普通プレイヤーは、あまり予備知識無しにゲームを開始します。
 ですから、導入部である程度情報を出して、ゲームのことを説明してやらないといけません。そうしないと、プレイヤーは、状況が良く分からないままゲームを進めていくことになります。それでは、今ひとつゲームに集中できず、楽しめません。
 また、最初に状況が把握できないと、その後の説明も頭に入りにくくなりますので、まず最初に前提となる情報をしっかり伝えておくことが大事です。

 ゲームの導入部で、どんなことを説明すべきか考えてみましょう。


 ◆世界
 そのゲームの世界観を、プレイヤーに理解してもらいます。
 世界観が理解できると、その後の説明も頭に入りやすくなりますので、まず最初に把握させたいところです。
 具体的には、中世風、現代、未来、というような時代設定、社会の形態や人々のくらしなどといったところを説明します。

 ◆登場人物
 主要な登場人物について説明します。特に主人公ですね。
 主人公は、プレイヤーが自分で操作するわけですから、何者かも分からないのではやりにくいですし、感情移入もできません。ですからまず最初にどんな主人公なのか説明してやる必要があります。
 具体的には、名前や職業、目的、性格などですね。仲間がいれば、仲間の名前や主人公との関係なども説明できるといいですね。

 ◆状況
 現在どういう状況なのか分からないと、プレイヤーは、どうしていいか分かりません。そこで、現在主人公が置かれている状況や、これからどうすべきなのかということを説明します。


 ◆システム
 ゲームの操作方法やシステムなどの説明です。これが分からないとプレイできませんので、最低限の説明はあったほうがいいかもしれません。
 もちろんこれは、説明書など他の部分ですることも考えられます。


注意すべき点
 説明をする際に、注意すべき点を考えてみました。

◆一度にたくさんの情報を出すな
 プレイヤーは人間ですから、多くの情報を一度に覚えることはできません。ですから、一度にたくさんの情報を出しすぎてはいけません。
 例えば、オープニングのナレーションや、システムの説明などは、つい長くなってしまいがちですが、そういう情報が、すべてプレイヤーの頭に入るとは思わないほうがいいです。

 情報は、ある程度小分けして出したほうがいいでしょう。
 また、必要なときに必要な情報を出す、ということも大事です。例えば、まだずっと先にならないと意味を持たないような情報を、最初の時点で出すことはないですね。(伏線を張る場合は別として)



◆説明的になりすぎるな
 説明だからといって、あまりにも説明的過ぎるのは良くないでしょう。
 単に情報を垂れ流すだけでは面白くないですから、プレイしていて楽しくないですし、場合によってはうんざりしてしまいます。
 なるべく、楽しさを損なわないように、さりげなく説明していくのが良いと思います。

 例えば、自然な会話の中で情報を伝えるとか、文章だけでなく、グラフィックやイベントシーンを使って分かりやすく伝えていくようにするといいでしょう。


プレイヤーを引き込む
 導入部の大事な役割に、プレイヤーをゲームの世界に引き込む、ということがあります。
 これは、フリーゲームの場合、特に重要です。フリーゲームの場合、ダウンロードされたからといって、プレイしてもらえるとは限りません。オープニングを見て気に入らなければ、もうそれで捨ててしまうというプレイヤーもたくさんいます。
 そうなると、ゲームスタートからの3分から5分程度で、プレイヤーの心をつかみ、ゲームの世界に引き込むことができるのが理想でしょう。


きっかけを与える
 大抵の場合、導入部で物語が始まるきっかけが与えられます。
 例えば、王様に魔物を退治しろと命令されるとか、お母さんにお使いに行ってくれと頼まれたり、村が盗賊に襲われたりといった感じです。
 これは、ストーリー構成の基本である起承転結の「起」の部分の役割と同じですね。そういう意味では、「導入部」=「起」と言ってもいいでしょう。


導入部の構成

 どのあたりを導入部と考えるかは、ゲームの規模や内容、作者の考え方によって変わってくるでしょう。
 とりあえず今回は、「オープニング」と「最初の町」と「起承転結の起」に分けて考えてみます。


オープニング
 ゲームスタート直後(もしくはゲームスタート前)に流れるのがオープニングです。
 「流れる」という表現からも分かるとおり、基本的にプレイヤーは操作できず、自動的に流れていくものです。


オープニングの特徴
 オープニングは、自動的に流れますので、プレイヤーは何も考えずに見ていればいいだけです。したがって、ゲームの世界にスムーズに入りやすいというメリットがあると思います。
 また、作者が完全にコントロールできますので、好きなように演出し、盛り上げることが出来ます。

 その反面、プレイヤーがコントロールできないだけに、長く続けるのは賢明ではありません。
 オープニングは、あくまでゲームではないので、なるべく短い時間に凝縮したほうがいいでしょう。長々とオープニングを続けると、「いつまで経っても、ゲームが始まらん!」と、プレイヤーをイラつかせることになってしまうかもしれません。
 時間的には、3分くらいまでだと思います。(もちろん、オープニングの面白さによっても、どの程度持たせられるか変わって来ますが)

 また、オープニングは見せ場であるだけに、そこで気に入ってもらえないと、プレイヤーに見捨てられてしまう可能性もあります。
 下手なオープニングを作って、プレイヤーに「ダメだこりゃ」と思われてしまうのが、最も大きなデメリットかもしれません・・・。


表現方法
 オープニングで使用される表現方法について考えてみます。

◆ナレーション
 ゲーム外の存在による語りのことをナレーションと言います。
 よくあるのは、真っ暗な画面に文字だけ表示されて、例えば「時は、西暦2253年。人類は、長い冬の時代を迎えていた。100年前に起きた核戦争により地上はほぼ壊滅し・・・」などと流すやつです。
 ナレーションの良いところは、何と言っても簡単だということです。文字を表示するだけですから。
 また、ゲーム外の存在による語りですから、何でも言えます。ゲーム内の登場人物が知り得ないようなこと(例えば歴史上の謎とか未来のこととか)でも語ることができてしまいます。その点、とても楽ですね。
 悪いところは、単調でつまらないものになりやすいということです。
 特に、文字を表示するだけの場合、延々と文字だけ表示されたら、プレイヤーもさすがに飽きますから、変化をつけるなり、短めにまとめるなりした方がいいでしょう。
 
 また、ゲーム外の存在ではなく、登場人物が過去を振り返るような形でナレーションをしたりすることもあります。


◆ムービー
 ビデオを流すものです。市販のゲームなどでは、オープニングムービーは当たり前になっていますね。
 アマチュアの場合、作るのが大変だったり、ファイルサイズが大きくなりすぎたりといった問題で、なかなかできません。
 しかし、いいものを作ることができれば、効果は大きいでしょう。
 ムービーは、グラフィックの表現力が高いので、世界観などはグラフィックで一目瞭然に表現することができます。


◆イベント
 ゲームのキャラを動かし、セリフをしゃべらせて、オープニングのシーンを演じさせるものです。
 作るのが比較的楽で、効果が高く、とてもいい方法だと思います。
 グラフィックで、世界観なども感じてもらえますし、会話によって主人公のこともある程度説明できるでしょう。
 また、実際にゲームに入ってからと同じ表現方法なので、違和感無くゲームに入っていけますし、途中で少しプレイヤーに操作させる部分をはさんだりも出来ます。
 応用が利きますので、プレイヤーを飽きさせない工夫が出来ます。


伏線を張る
 オープニングでするべきことは、「導入部の目的」にも書いたとおり、説明やプレイヤーを引き込むことですが、まったく別の目的で使われる場合もあります。
 それは、「伏線を張ること」です。
 良くあるのが、本編とは別の場所で別の登場人物が登場し、物語のきっかけになる出来事が起きたり、あるいは謎の組織が登場し、後々本編で主人公たちに絡んでくる、というようなものです。 

 オープニングは、ゲーム本編とは区切られているものですので、伏線を張るにはもってこいなのですが、オープニングを伏線に使うと、「プレイヤーに対する説明」という意味では、不十分になるかもしれません。その場合、他で補うべきでしょう。


具体例
 具体例として、筆者の作品「トラベラー改良版」を取り上げます。
 誤解の無いように言っておきますが、これが良い例というわけではありません。どういう狙いでシナリオを書いているか分かっていただければよいと思います。
 その狙いが成功しているかどうかは、各自で判断してみてください。

 「トラベラー改良版」は、下記でダウンロードできます。
>>>トラベラー改良版サポートページ
 RTPをインストールしていない人は、RTPのインストールも必要です。
>>>RTPのダウンロード


 トラベラーのオープニングは、2人の主人公が山に登るところから始まります。
 ここでやっておきたいのは、ゲームの説明です。先に書いたように、「世界」「登場人物」「状況」について、このオープニングで説明し、プレイヤーに状況を把握してもらいます。
 長さは、約2分程度です。この程度なら、長すぎることは無いでしょう。


 まず、最初の会話で、主人公の名前が、ジェードとベリルであることが分かります。
 また、ベリルがジェードを師匠と呼んでいるので、2人の関係が師弟関係であることが分かります。
 また、ゴールドストーンという地名も出てきます。(この時点では、地名かどうかはっきりとは分かりませんが)
 【これで、主人公の名前と関係の説明が済みました】

 次に、少しプレイヤーが操作できるようになって、山の頂上へ上ります。すると、遠くに町らしきものが見えます。
 ここの会話で、どうやら昔馴染みの土地に久しぶりに帰ってきたということが分かります。
 【これで、現在主人公が置かれている状況の説明が済みました】

 また、最初の町で出会うことになる、「ぺリドット」「ジェードの師匠」「ぺリドットの娘」についても触れています。
 これは軽い伏線ですね。例えば町へ行くと師匠とけんかしますので、事前に師匠との関係をにおわせるために「しかし、あのババァの顔見なきゃならんと思うと、帰る気もうせるね。」というセリフがありますし、見違えるほどきれいになったぺリドットの娘にびっくりしたりするので、「旅に出た時は、まだ青臭いガキだったがさぞかし奇麗になったことだろう…。」というようなセリフもあります。
 【これで、伏線張りが済みました】

 それから、町へ行ったら「まずぺリドットの店へ行く」というプレイヤーへの指示も出しています。
 【これからどうすべきなのかという説明が済みました】


 全体を通してジェードとベリルの性格も表現しています。
 例えば、ジェードの師匠に対する物言いや、ベリルに対する態度から、ちょっと性格が悪そうだということが分かります。
 ベリルは、少々世話の焼けるあまり出来の良くない弟子であることが分かります。また、子供っぽい容姿や性格であることも分かります。
 【これで、主人公の性格の説明が済みました】

 ちなみに、最後のところで、「いざ、ゴールドストーンへ!」と言っているので、これでゴールドストーンが地名であると分かります。


 世界観については、さほど説明していません。
 これは、一般的なファンタジーの設定なのでさほど説明がいらないということもありますし、グラフィックで大体把握できるためです。もちろん、最初からファンタジーRPGとして配布しているということもあります。


 説明できていないのは、主人公の職業と目的ですね。
 職業については、次の「最初の町」で説明します。ちょっと変わった職業なので、オープニングでは説明せず、最初の町で少しづつ説明していきます。(神霊治療の手引書というアイテムで、いつでも説明を読めるようにもなっていますが)
 目的に関しては、当面は「里帰り」なのですが、それについては大体雰囲気で分かるでしょう。
 もっと大きな全体を通しての目的は、この時点では出てきません。


最初の町
 ゲームをスタートして、最初にプレイヤーが主人公を操作して歩き回れる場所、それが「最初の町」です。もちろん、町とは限りません。村かもしれませんし、城かもしれませんし、山の中の一軒家、あるいは洞窟の中かもしれませんが、ともかく最初の場所ですね。

 この、最初の町までで「導入部の目的」のところで書いた「ゲームの説明」をすべてしてしまうのが良いと思います。


説明のしかた
 「最初の町」で、「ゲームの説明」をどのような形で行うか考えてみます。

◆説明係
 説明係の人物を置き、その人に事情説明をさせます。
 良くあるのが、王様や村長ですね。主人公を呼んで、「魔物が現れたから、お前は勇者なんだし、退治してくれるよな?」などと言う訳です。
 さらに、王様の周りにいる兵士や大臣が、ご丁寧に、現在の状況や、旅に出る前の準備などについて教えてくれます。
 上記の例は最初の町が城の場合ですが、これが村の場合、主人公の知り合いが多く、村人たちが親切にいろいろと教えてくれるという形になるかもしれません。

 この方法は、分かりやすいですし悪くないですが、会話がちょっと不自然になったりすることがあるのが欠点でしょうか。あと、あまりにもお約束っぽい雰囲気で興ざめしてしまうということもあるかもしれません。


◆仲間
 主人公の仲間が、主人公を導いてくれるというものです。
 例えば、主人公が寝ていると、主人公の幼なじみがやってきて、「早く起きろ、洞窟へ探検に行くぞ」などとのたまうわけです。
 これはある意味、説明係がずっと一緒に行動しているようなもので、分かりやすく、また便利でもありますね。


◆酒場
 酒場に限りませんが、「情報が集まる場所」を設定しておき、そこで情報を手に入れられるようにしておきます。
 この場合、お金を出さないと情報が手に入れられなかったり、レベルが上がったりストーリーが進行しないと手に入れられない情報があったりと、システムに絡んだ情報の出し方がしやすいのがメリットでしょうか。


◆本棚・図書館
 本棚の本などを読むと、色々と情報を得られるというものです。
 この方法は、完全に説明と割り切って出来るのがメリットでしょうか。人間だと、あまりに説明的だったり、ずっと同じことを話し続けたりするのは不自然ですが、本なら説明的でも不自然ではないですし、常に同じことが書いてあるのは当たり前です。
 

具体例
 具体例として、また筆者の作品「トラベラー改良版」を取り上げます。

 トラベラーでの最初の町の目的は、以下のようなことです。
 1.オープニングで説明し切れなかった、主人公の職業と目的について説明すること
 2.主人公のキャラクターをさらに詳しく描くこと


 主人公の職業と目的については、イベントや会話で、神霊治療師という職業、夢魔を退治していることなどが分かるようになっています。
 主人公のキャラクターについては、町の人との会話などで、人物像を少し詳しく描いています。 
 またこれは、実は伏線でもあります。後に、アゲードという青年の治療の際に、夢の中にこの最初の町「ゴールドストーン」が出てきますので、そのために町の人々のキャラクターなども描いておく必要があります。


起承転結の起
 ストーリー構成の基本である起承転結の起の部分は、それ全体で導入部であるとも考えられます。
 起全体となると、それなりの長さになりますから、ここまでで導入部の目的は、しっかり果たしておくべきだと思います。
 もっとも、ここまでプレイしてもらっているということは、少なくとも「プレイヤーを引き込む」という目的はすでに達成しているということかもしれません。


具体例
 具体例として、また筆者の作品「トラベラー改良版」を取り上げます。

 このゲームでは、最初の患者の治療が終わり、次の村へ旅立つところまでが、「起」です。
 ここまでで、プレイヤーにゲームの世界やシステムに慣れてもらい、次からいよいよ本番に入ります。
 そのために、主人公の夢を利用して、伏線を張ったりしています。



Last Updated : 2006-10-11

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